コラム

15歳も年上の世界チャンプのことを面と向かって「ゴキブリ」呼ばわりするような、常に日本人にあるまじき非礼な言動を働くチンピラ少年の切腹が決定したのは日本人の魂の健康のために良いことだったが、今日の本題はそこではない。

試合前のリングアナによる選手コールの代わりに、こんなアニメ出ばやしが使われたのだ。

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フッフッフ…
ハーッハッハッハ!

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地下闘技場ならぬ、有明コロシアムへようこそ!
ただいまより、日本人頂上決戦、WBC世界フライ級タイトルマッチを行なう。

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まずは青コーナー。この範馬勇次郎が唯一認めた男!
日本人史上最年少、世界の頂上へ駆け上がれ!チャレンジャー、浪速の弁慶、亀田大毅の入場だ!

これはないわ。

オーガこと範馬勇次郎といえば、人気漫画『グラップラー刃牙』シリーズにおいて、「地上最強の生物」として作品世界の頂点に君臨するキャラクターである。その強さと言えば、素手で北極のシロクマを屠り、テレビに映ったアメリカ大統領の「顔が気に入らない」と言って単身乗り込み、物理的にホワイトハウスの警備を突破できるほどの格闘技?界最強の人間である。

そんな絶対的キャラクターが、こんな茶番台詞を言ってしまったら全部台無しなんである。(徳川翁が「皆の衆!」とか出てくるならまだ良かったと思うんだけど。)

自分の関わったキャラクターをパチンコ屋に売り払ってしまう松本零士のような例は論外だが、それでなくても創作者は、自分が生み出したキャラクターがいつまでも私的所有物ではなく、その作品世界を愛する全ての人の共有財産になるということをもう少し意識した方がいいように思う。

『ルパン三世』の原作者、モンキーパンチ氏は、アニメのヒットによってキャラクターとしてのルパンが売れたのはいいが、それによって漫画が描きづらくなったという。元々ルパンは、女でも後ろから撃つような非道なキャラクターだったのだが、アニメのヒット以来そうした「本来の」ルパンを描くと、ファンから苦情が届くようになったそうだ。ファンがイメージするのは、あくまでも『カリオストロの城』のようなルパン。ひょうひょうとしていながらダンディズムを漂わせ、体を張って女の子を守るキャラクターなのだ。これはある種の皮肉な例ではあるけれど、キャラクターってそういうもんなんじゃないかと僕は思う。

岡田:あの、原作者のモンキー・パンチさんは、やっぱり、この『カリオストロの城』を、すごい評価しているんですけども、この後ですごくやりにくくなったと言っているんです。

国生:そうだと思う。

岡田:だってモンキー・パンチの原作版のルパンって、女を裏切るし後ろから撃つんですよ(笑)。
活字中毒R。

(櫻木)