時事問題

前項で取り上げたとおり、ナチスによるベルリンオリンピックは、大ドイツ主義の美名の下に、民族浄化の悪行や覇権的野心を隠蔽していた。

そして北京オリンピックも、中華主義の名の下に、周辺諸民族への侵略と弾圧、チベット族の民族浄化を隠そうとしていた。実によく似ているではないか。

しかし、ナチスドイツ(ドイツ国家社会主義労働党)と中共(中国共産党)とで、大きく異なる点がある。それが宣伝と演出のうまさだ。

ナチスドイツと中共との大きな違い

ナチスは、ゲッベルスという天才とヒトラーという魔性のカリスマを得て、とにかく宣伝がうまかった。「ナチス千年帝国」という幻想に重みを持たせるための荘厳な演出の数々は、世界の人々に大きなインパクトを与えた。例えば制服・軍服一つ取ってみてもナチスのそれは非常に洗練されていた。当時のベルリンで最も女性にモテたのは、ナチスの軍服に身を包んだ若者だった。今でも、ミリタリーマニアの間でナチスの軍装の人気が高いのも頷けない話ではない。

それに引き替え、中共の宣伝はただひたすらにうさんくさい。金と物量作戦で世界中に日本に関する誹謗中傷をばらまくようなネガティブキャンペーンには巧みな部分もあるが、自らを演出することにかけてはあまり成功しているとは言い難い。

さらなる決定的な違い

また、ベルリンオリンピックの時代と北京オリンピックの現代とで、決定的に違う点が一つある。

それこそが情報革命であり、インターネットの世界的な普及だ。今や国家権力がどんなに国内の悲惨な実体を欺瞞で糊塗しようとしても、その実体はたちまち白日の下に晒される。

ひとたび真実が暴かれれば、「インターネット世論」が形成され、あっという間に世界中に抗議の声が満ちあふれることになる。

北京オリンピックは、逆説的に世界中の人々を結びつける、世紀の祭典となった。

(櫻木)