台湾人元日本兵が焼身自殺

在りし日の許昭栄さんと「台湾無名戦士慰霊碑」

高雄市で20日午後7時ごろ、「台湾無名戦士記念碑」の前で車が燃えているとの119番通報があり、消防車が出動して火を消し止めた。車内から焼死体が発見され、台湾人元日本兵の許昭栄さん(80歳)と分かった。台湾人元日本兵は大東亜戦争中、日本軍として出兵し南洋戦線で活躍したが、戦後になって国民政府に邪魔者扱いされ、中国戦線に駆り出された。多くが死亡し、生き残った老兵も苦難の人生を送った。許さんは21年前にカナダから帰国し、台湾人日本兵の補償問題に取り組み、著書もある。努力が実り、2005年に旗津に「台湾無名戦士記念碑」が立ったが、今年になって碑のある「戦争と平和記念公園」の名が「平和記念公園」と改名され、金門島での戦死者の碑も並立されることが決まった。遺書には、陳総統が記念碑のテープカットに来ないことを恨む文言が書かれてあった。
（なる台NEWS -台湾人元日本兵が焼身自殺）

『台湾老兵』の許昭栄さんが、政府への抗議の焼身自殺を遂げたことをニュースで知りました。許昭栄さんは、元日本兵として、過酷な運命を辿った仲間達のために、台湾の独立運動や元日本兵（台湾では『台湾老兵』と呼ばれる）の補償問題などに、生涯をかけて取り組んでこられた方です。

次の言葉は、2007年に日本で出版された本に掲載された、許さん自身のメッセージです。

「台湾ではまだ戦争は、終わっていないのです。」

日本の皆さんに伝えたいのは、台湾ではまだ「戦争」が終わっていないということ。日本は終戦とともに戦争が終わりました。でも台湾では、まだ、政府と戦い、苦しんでいる人がたくさんいます。僕たちの運動に共感してくださる日本のかたがたが増えたら嬉しく思います。
「台湾退役軍人及び遺族協会」理事長 許昭榮
愛する日本の孫たちへ (かつて日本人だった台湾日本語族の証言集

この「台湾無名戦士記念碑」は、台湾政府からは1圓の補助もなく、許さんが私費を投げ打ち、寄付金を集めてできた物です。その記念碑のある公園が、今回の「リニューアル」によって、建立の意義が薄められてしまう、しかもそのテープカットに総統はこない。「台湾老兵」の存在は歴史に埋もれ、忘れ去られてしまう…。そうした現状に対する焦燥感と、燃えるような憤怒の心があったのでしょう。許さんの、そして無名戦士として死んでいった無数の元日本兵の魂を思うとき、その心中は察するに余りあるものがあります。

では、この「台湾無名戦士」、「台湾老兵」と称される「元・日本兵」とは、一体どういう存在だったのでしょうか。

■大日本帝国 台湾地方

台湾は、日清戦争以降、大東亜戦争の終結まで、日本の統治下にありました。大戦後期、それまで内地人のみに限られていた徴兵が、朝鮮、そして台湾にまで適用されることになりました。

許さんは、整備兵として海軍に入隊することになりましたが、やがて日本軍の敗戦を迎えても、「台湾の終戦」は訪れませんでした。

大陸で日本と戦っていた国民党軍にとって、許さんのような、大日本帝国陸海軍出身者は、敵国の思想に染まった「元日本人」です。
しかも、未だ大陸で共産党と戦っている国民党軍にとって、戦闘要員として利用価値の高い存在でもありました。元日本兵の青少年達は、「徴用」というより半ば「拉致」のような形で、大陸の戦場に送り出されます。

■元日本兵の過酷な運命

こうして国共内戦の前線に送り込まれた、台湾青少年は、約1万5千人。大陸戦線で日本軍の敗戦を迎え、そのまま兵器と共に国民党に「接収」されてしまった人もいます。

彼らは「台湾人」とはいえ、生まれたときからの日本人のため、言葉も分からないまま前線に投入され、次々と死んでいきました。1万5千人中、戦死、病死者の数はなんと約1万2千人にも上りました。

残りの3千人のうち2千人は、支那大陸で共産党軍の捕虜となり、今度は共産党側の兵士として朝鮮戦争に投入される例すらありました。そこで朝鮮戦争を生き延びた人たちは、「文化大革命」の時に、元日本人、元国民党軍、台湾人として約1000人が「反革命分子」として弾圧、処刑されました。

1949年、国民党軍は結局共産軍に負け、台湾に敗退しますが、1万5千人いた元日本兵のうち、台湾に生還できたのはわずか400人余りです。

■無名戦士の記念碑建立の夢

しかし台湾の国民党政府は、1987年の戒厳令解除まで、この台湾出身兵への補償どころか、その存在を認めようとすらしませんでした。
97年ごろに、ようやく高雄市の土地が政府から提供され、許さんらはそこを「台湾老兵世界平和祈願記念公園」の建設用地として、金策に走り、私財を投げ打ってようやく2004年に「台湾無名戦士記念碑」が建立されたのです。

政府は今日に至るまで、一銭たりとも戦没台湾老兵に対する慰霊碑や記念講演の建設資金を補助していません。台湾老兵も高齢化が進んでいます。皆が亡くなってしまえば歴史は埋もれてしまいます。まだ記念碑だけの更地ですが、一日も早く立派な公園ができることを熱望して止みません。

許昭栄

■このままでいいのか

「台湾老兵」の歩んだ苦難の道のりは、戦後の日本の影です。多くの犠牲の上に成り立っている日本の繁栄は、私たちの目に触れないところにもその傷跡を残していました。

現在、日本と台湾との間には正式な国交がありませんが、中共にミサイル代を援助したりするくらいなら、こうした真の被害者、元・日本人のために1円でも使ってもらいたいものです。

民間でも、韓国の自称「従軍慰安婦」に「お詫び基金」などだまし取られている暇があったら、こういうところに寄付をできないものでしょうか。

それとも民間では何らかの支援が行なわれていたりするのでしょうか。もしご存知の方がいたら教えてください。

（櫻木）