コラム

麻生首相と言えば、「こち亀を読んで笑えなかった週は調子が出ない」とか「国際関係はゴルゴ13で勉強した」などと公言するほどのマンガ・アニメ好きで有名です。

その日本のアニメ・漫画は、確かに今は世界中でも評価が高まっている。マンガは正式版・海賊版あわせて海外で多数出版され、「コスプレ」や「アニソン」などの言葉が定着し、ハリウッドの原作になるマンガもあります。

うまくいけば、このままアニメ・マンガは日本の新しい代表的文化として世界に定着し、経済効果や対日感情のさらなる向上などの将来が期待できるかも知れません。
おそらくは麻生首相も多少はそういうことを考えているはずで、それがこの「アニメ美術館」構想につながったのだろうと思います。

政府の構想では、美術館にはアニメ、漫画、映画などの作品を展示。東京・ お台場が候補地で、来場者数の目標は年間60万人。補正予算案には 建設費117億円が計上されている。
痛いニュース(ノ∀`):麻生「117億円でお台場にアニメ美術館をつくる」

フランスでは、自国の文化をはい・カルチャーとして世界に優越したものにし続けるため、文化芸術活動にたいして政府が様々な援助をしていると聞きます。
中国共産党が、世界各国の大学に設置しようとしている“孔子学院”も同様の趣旨によるものでしょう。

しかし、117億円の予算を計上するなら、美術館よりも先に現状のアニメ業界の育成・保護を考えた方がいいのではないでしょうか。
美術館・博物館は、現在あるもの、過去にあったものを保存するものでしかありません。

過去が希望をくれる

確かに過去の遺産も大事ですが、アニメ業界は今、長年の制度疲労と構造不良によって、慢性的な衰弱状態に陥っています。

平均年収(アニメ以外の収入含む)は、動画を主な仕事とする人が約105万円、原画は約232万円、演出は約333万円、監督は495万円だった。年代別では20代が平均約110万円、30代でも約213万円、40~60代で400万円台となる。概算の時給は動画298円、原画689円、監督1412円。

「生活に不満」と全体の62%が回答。勤労理由の最多回答は「絵を描く仕事が好き」、2位は「お金を得る」、3位「この仕事が楽しい」、4位「生きがいの一つ」。個々人のやる気に依存する現状がうかがえる。

結果概要の発表と同時に開いたシンポジウムでは「単価が低すぎる。新人は1年契約でもいいから固定給にすべきだ」(アニメーター)、「親と同居か仕送りがあることを、新人を入れる条件にする会社がある」(専門学校講師)など、厳しい現状を訴える声が相次いだ。
asahi.com(朝日新聞社):20代アニメーター、平均年収は110万円 協会調査 – マンガ+ – 映画・音楽・芸能

非道い話ですよこれ。しかも実際の作業は、人件費の安い中韓に取って代わられ、日本人アニメーターはさらなる不安にさらされているそうです。

ちなみにそうした安易な外注、制作費の極端な切り下げは、こういう粗悪なアニメの乱造へとつながります。

(これはこれで凄く…面白いんですが…)

日本が世界に誇るべき「アニメ」は、ジブリ作品だけではありません。毎週テレビで夕方に放映される良質なアニメで子供達が育ってこそ、文化、産業として安定するんじゃないでしょうか。

手塚治虫の功罪

ちなみにアニメ業界の給料がこんなに安いのは、放映料が安いからだそうです。
そして放映料がなぜ安いかと言えば、かの手塚治虫が、自身のアニメを売り込むときに「テレビまんがなんてやっても当たるわけがない」と渋るテレビプロデューサーを説得するために、破格の値段で売り込まざるを得なかったから、だとか。
しかしそうして無理押しで放映されたのが、日本初の週1テレビ放映アニメ『鉄腕アトム』だったわけで、もちろんそのアトムがなければ日本のテレビアニメーションの歴史自体が始まらなかったというわけで、色々と難しい話ではあります。

(櫻木)