コラム


加瀬あつしがマガジンで新連載を始めた。加瀬あつしといえば代表作の『カメレオン』などで、ヤンキー漫画というジャンルに「弱い主人公がハッタリで切り抜ける」というパターンを確立した人気作家である。

この新連載がなかなか熱いのでオススメしておきたい。


時は平成の現代、戦争中に北方領土で氷漬けになった大日本海軍の中尉が現代に甦り、モラルを失った現代人に喝を入れるというもの。どうやらヤンキー高校の教師になるという王道の学園ストーリーになるようだ。

ちなみに、この第1話は公式サイトにてフルに読めます。


これは千葉のヤンキーを大和魂で震撼させることになる
あるカリスマ教師の物語である。
「先生」とは先に生まれると書くが
その男は先に生まれすぎていた!
日本からはるか離れた極寒の地にただ1人
時を止めて…

作者からのコメントがまたふるってる。「充電満タン!下品さに磨きをかけて戻って参りました!」


北方の島で凍り漬けになって仮死状態の海軍中尉。



まあ加瀬あつしなので、「女の子が股間を掴んだ拍子に蘇生する」などのおげふぃんな演出が。
何かと誤解されている昨今なので、あんまりこの主人公をエロいキャラクターにしないでほしいんですけども…。


高層ビルの建ち並ぶ幕張の景観に驚く中尉。
「この見事な繁栄…。大日本帝国はあの戦局より米英に打ち勝ったとでも?」


敗戦を知って自決しようとしたところに『旭日旗』を掲げた暴走族が通りがかり、タクシーの運転手に暴行を加える。


暴走族の行状、見て見ぬふりをする通行人に激怒する。
「物が豊かになった分、心が貧しくなってやがる!」



「オイ貴様。歯ァ食い縛れ!」
炸裂する帝国軍人式ビンタ。
10mくらい吹っ飛ぶ珍走。ピクル(バキ)か?


「何だ、テメェ!」

「日本海軍航空隊 海軍中尉、旭歳三!
 日本に代わってキサマらをしつけする!」

おおー。こういう『水戸黄門』的な王道の演出はやはりいいなぁ。
現代に甦る大日本帝国海軍魂。最高じゃないですか!

さてしかしこれも20~30年前の狂った時代には書けなかったストーリーだろう。
反日の嵐が吹き荒れた70~80年代、ヨーロッパのジャポニズムブームを受けて「和風」が再評価された90年代を経て、近年、多くの日本人が自らのルーツに向き合うようになってきている。
特にネットの普及以降、学校教育で隠蔽されてきた、帝国時代の日本の功績も広く知られるようになった。
現代の日本の繁栄が、先人達の功績に基づいていることに、多くの人たちが気付き始めたのではないだろうか。

加瀬あつし自身にとっても、おそらくこの漫画は転換点になるはずだ。これまでの加瀬作品の主人公はいずれも、中身のない主人公が、ハッタリや運や妖車などでうまく立ち回るという他力本願式のギャグ漫画だった。しかしこの新連載の主人公は、「中身のある男」。その象徴として帝国時代の軍人が描かれている。
日本は必要以上に着飾っていたバブルの崩壊と、不況・格差社会を経験し、確固たる自己認識と歴史観が求められる時代になった。

よく、タクシーの利用度は景気の反映といわれるが、マンガの題材には世相が反映されていると思う。
この漫画『ゼロセン』は、大和魂の復権と教育正常化の兆候を反映しているのかもしれない。

マガメガ『ゼロセン』

(櫻木)