読書

『シグルイ』がヒット中の山口貴由の出世作、『覚悟のススメ』の保存版がようやく全巻出揃った。

覚悟のススメ(5)
覚悟のススメ(5)

少年の名は覚悟! 穏やかな瞳に秘めた運命・必勝!
鎧の名は零! 物言わぬ鋼に込めた悲願・七生!
牙を持たぬ人の血が流されるとき、少年と鎧はひとつに重なる!
そのときはただいま! 只今がその時なり!
ふさわしい場所に堕ちよ現人鬼!
視線の彼方に見えるのは因果!

『覚悟のススメ』とは

大東亜戦争当時に、最終決戦兵器として秘密裏に作られていた意思持つ鎧(パワードスーツ)を装着する少年、覚悟。地殻変動で魔都と化した東京で、人類の平和を守り、牙持たぬ人の牙となるべく戦う、勇気と覚悟の物語である。

改めて読んでみると、最初と最後ではだいぶ物語の感触が違う。最初の頃は、ヒーロー物ということを多分に意識した作りで、逆十時学園に侵略してくる戦術鬼を、覚悟が「宣戦布告と認識する!当方に迎撃の用意あり!」という決め台詞(のはずだったと思う)と共に武装して撃退する物語だった。(ちなみにこの「崩壊後の東京」「学園」「武装する学生」「魔物」というモチーフは、もろに菊池秀行の魔界学園シリーズのそれである)

中ごろでは、覚悟と兄・散(はらら)との対決が物語の主軸となり、強化外骨格・零を失った覚悟が徒手空拳で立ち向かっていく姿が基本となる。主人公のフォルムが全く変わってしまうのを厭わず、主人公の「覚悟」を表現しようとしたものか。そして後半になると、兄弟愛と人類愛とが最大限にクローズアップされていく。

僕はどちらかというと、大きく分けて前半の展開の方が好きだ。バトルものとしては後半も見応えはあるのだろうけど、本作品のテーマである「覚悟」「戦うということ」については、前半の方が舞台設定も筋立ても明確ゆえに、輪郭がしっかりと際立って表現されているように思える。

時代背景について

苦言を呈するならば、この作品中における「大日本帝国陸軍」の描かれ方が相当にひどい。漫画とはいえ無自覚な偏見と戦後思想に毒されている。731部隊をモデルにしたのであろう「瞬殺無音部隊」を率いる主人公の祖父は、捕虜4千人を人体実験に使って強化外骨格を作るマッドサイエンティストで、その捕虜の霊が「英霊」として鎧に宿る、という、(フィクションとはいえ)噴飯ものの無茶設定である。

それでも、頭に「七生」と刻まれた鎧を装着し、軍隊式格闘技「零式防衛術」を身に着けた白ランの少年が戦うなどという筋立ては、十分に「右翼的」ではある。この作品が発表されたのは、実に13年も前である。

1994年当時、世の中の風潮は今よりももっと左翼的だったと記憶している。軍人風の主人公が「零式」で正義のために戦うなんていう設定はとんでもなかったんじゃないかなあ、とも思うのだ。ちなみに、かの有名な『ゴーマニズム宣言 戦争論』が出たのは、1998年である。

覚悟とは武士道

1巻には、連載時の巻末コメントが集められている。いずれも熱い言葉だ。

「時代を超えるヒーローを描くのだ!
 誰よりも勇気に溢れている!」

「愛を込めて、力の限り描く!
 それは私とスタッフが、星空と交わした約束!」

「『ヒーローの条件』自分より強い奴に立ち向かってゆくこと!他になし!」

これは、現代日本に失われて久しい武士道精神を優れて表現した作品である。

この国に迎撃の用意はあるか?
戦う気概はあるか?
真剣に立ち向かうことができるか?

それが「覚悟」である!

日本男児は迷わず買いだ。

(櫻木)