時事問題

先日の安倍元総理批判は、度重なる心労と過労とで入院辞職した一国の首相に対して、武士の情けに欠ける酷薄な文章だったかもしれない。何しろ「どこが闘う政治家か」と断罪したのだから。

しかし、何せ僕はがっかりしてしまったのだ。


安倍総理は、僕らにとってのウルトラマンだった。

世界中から、怪獣たちが理由も不明なままに日本へ来襲し、レッドキングが暴れ、その子分のマグラにもいいようにされ、エースキングが日本を征服しようとしている、時はまさに世紀末だ。

そこへ、初の戦後生まれ宰相として、北朝鮮などへの強硬な姿勢で支持を集めて颯爽と現れたのが安倍総理だった。この首相なら、中国や韓国に金をせびられたり無意味な土下座をして蔑まれたりしなくてすむかもしれない。河野談話を破棄したり、ひょっとすると憲法改正までできるかもしれないぞ…!

そんな保守、良識派の期待を一身に受けて登場したのもつかの間、就任早々「河野談話を継承する」としたり、「靖国は行くとも行かないとも言わない」と言って結局行かなかったり、アメリカでは発言が「性奴隷に謝罪」と報道されてしまったり、安倍トラマンは苦戦し続けた。

その間、防衛庁を防衛省に格上げしたり、憲法改正への道筋として国民投票法案を通したりと、大きな攻撃もしたが、狡猾なバルタン星人が「年金問題は安倍トラマンと科特隊のせい」と民衆を扇動して、参院選では惨敗してしまった。
「私を取るか、バルタンを取るかだ」と啖呵をきった手前、これは厳しい。「職を賭して給油する」と言った手前、これが中断するのも厳しい。

しかし、最後の最後まで僕らは信じていた。ウルトラマンとは、颯爽と現れても、最初は苦戦するものだ。怪獣に痛めつけられ、這いつくばり、しかし最後には反撃の糸口をつかんで大攻勢、そして最後はスペシウム光線で大爆発なのだ! 僕らは当然、安倍総理にもそうした劇的な逆転劇、開き直って保守本流光線があるものと信じて期待していた。

安倍総理が歴史認識ベタ降りで靖国神社に背を向けても、保守派は「いや、あれは参院選対策だから」「落ち着いたら、また元の安倍さんに戻ってくれる」「今は耐えるときだ…」と歯軋りしながら安倍総理を擁護し続けた。

それが、結局まったく光線を打つことなく、チョップやウルトラ投げなどを打っただけで、カラータイマーが切れる寸前になったら「ジュワッチ」と飛び立ってしまったのだ。虚脱しない方がどうかしている。

次の総裁候補は、とりわけ怪獣に気を使う男らしい。これで日本は、またしばらくの間、怪獣天国というわけだ。

(櫻木)